最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
06. 揺らぎ
土曜日はまったく起き上がれず、ベッドの上で過ごした。
ときおり久人さんが、飲み物や食べ物を持ってきてくれる。これがまた、ミントの葉が添えてあったり、ヨーグルトとはちみつに加えてレモンがちょっとだけ絞ってあったりと、容赦なく完成度が高い。
自分のできなさ加減をぐさぐさ抉られつつ堪能し、人の悪い笑みを浮かべる久人さんに見守られながら、私は少しずつ回復していった。
そして日曜日の朝。
「身体が動く!」
思わず声を出してしまい、慌てて口を押さえた。すぐ隣で、久人さんが眠っている。
私をなにかから守るみたいに、腕で囲うようにして。
休みの日も、家でなにかしらの仕事をしている人だ。昨日はそれに加えて、一日看病をしてくれた。
くたびれているに違いない。
私はそっとベッドを出て、バスルームに向かった。
シャワーを浴びると、生き返る。汗も汚れも落として、なにより自分からふんわりいい香りがするのがうれしい。
生まれてはじめて、心の底から健康に感謝しながら身支度を整えたとき、インターホンの音がした。
急いで仕上げをし、ダイニングの入り口にあるモニターを確認する。
男の人が映っていた。
久人さんと同年代の、見覚えのない方だ。カジュアルなワイシャツに、胸もとを少し開けている。
少し微笑んでいるようなきれいな顔はくつろいでいて、警戒が必要な相手ではないと思われた。
「はい」
『あ、イツキです。久人はいます?』
イツキさん…。
名前におぼえがある。
どこで聞いたんだっけ、と記憶を探っていると、廊下の奥で物音がして、いかにも寝起きですという風情の久人さんが駆け込んできた。
「悪い、今起きた、ロビーで十分待ってて!」
私の背後から、モニターに向かって怒鳴る。両脇の壁についた手と彼の身体の間で、私は押しつぶされた。