最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
モニターの中の顔がにやっとする。


『おやー、ごちそうさん、いくらでも待ってるよー』


そんなんじゃないっての、と久人さんがシャツを脱ぎながら言い返す間に、インターホンは切れてしまった。


「私、お相手してましょうか?」

「えっ、ほんと? 助かるよ、ごめん」


バスルームの向こうで、焦った声がする。


「あの、ところで、イツキさんて…」

「あれっ、そうか、会ってない?」


引き戸から、裸の肩と顔が、ひょいと覗いた。


「俺の従兄だよ」




高塚樹生(いつき)さんは、モニター越しにも感じたとおり、すらっと背が高く、中性的な顔立ちにやわらかな声を持った方だった。

さらっとした明るい色の髪。ワイシャツにはきれいなチノパンを合わせ、紺のジャケットを手に持っている。


「正確に言うと、又従兄なんだけどね。親族の集まりのとき、予定が合わなかったんだ。これがはじめましてだね、桃子ちゃん」


ロビーまで迎えに降りた私を見るなり、ソファから立ち上がってにっこり笑った。

ということは樹生さんのほうは、私の顔を知っているのだ。

部屋に戻るエレベーターの中で、そんな話になると、彼が微笑む。


「だって、久人にさんざん自慢されたもの」

「えっ、なんて…」

「かわいいでしょ、俺の嫁さんだよって」


わあ…。


「なーんて話を聞いたくらいで、真っ赤になってニッコニコだもんなあ、こりゃかわいいね」

「久人さん、私にはあまり、そういう言葉をくださらないので…」

「えー? そりゃダメだね、あいつめ」

「いえっ、あの、言葉以外では、くださるんです、すごく」
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