最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
そのとき、その手の薬指に、銀色の指輪が見えた。

私の視線がそこに釘付けになったことに、彼も気づいたらしい。自分の指輪をちょっと眺め、「なんですか?」と不思議そうにした。


「…もし、ご自身が会社を辞めるとなったら、奥さまにご相談します?」

「えっ?」


片手で私に名刺を差し出し、もう一度左手の指輪を見つめる。


「そうですね、もちろんします。相談というより、報告になるかもしれませんが」

「報告だとしたら、何番目くらいですか?」

「何番目?」

「真っ先に奥さまに報告なさいますか?」


名刺を受け取りながら重ねて聞くと、アドバイザーさんは、ああ、と納得した様子を見せた。


「それでいくと、限りなく真っ先に近いですね。実は妻も同業でして。キャリアの話に限って言えば、最初に報告したい相手かもしれません」

「信頼、されてるんですね…」

「まあ、そうでなくても家族ですし。年収や勤務体系が変わるタイミングでも、すぐに話してきましたよ。自分だけの話じゃありませんから」


涙が出てきた。


──俺だって、奥さんの勤め先くらい、いつも頭の片隅にあるよ。


そう言ってくれましたよね、久人さん。

私の情報は、把握しておく必要があると思っているのに、その逆は許してくれないんですね。私は久人さんのなにもかもを、知っている必要はないんですね。

私の力も手助けも、あなたは求めていないんですね。

それじゃ私、まるでペットです。

ねえ久人さん。夫婦って、なんでしょう。


「う…」

「あれっ、わ…御園さん」


こらえきれなくなって、うつむいて涙を拭う私に、アドバイザーさんの慌てた声が降ってくる。
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