最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「全然。むしろ率直に打ち明けてくれて嬉しかった。考えてみたら、当時彼らはまだ三十代だ。身寄りのない、施設育ちの十歳の子供に、あんなに真摯な態度をとることのできる人なんて、どれだけいるだろう」
そこでまた、ふと口をつぐむ。
「俺は、この人たちの息子になりたいと思った」
ようやくわかった気がした。久人さんの、育ての両親への、深い尊敬と感謝。私が他人行儀だと感じたものは、彼からのふたりへの敬意であり、礼節だったのだ。
──桃は、ご両親の思い出を、楽しそうに話すんだね。
久人さんも、お義父さまとお義母さまのことが好きなんだ。彼らが誇れる息子でありたいと思っている。自分を選んでくれたことを、後悔させまいとしている。
ふいに、久人さんが私の手を、きゅっと握り直した。
「…っていうのが、昔の記憶。でもね、このあたりのことって、自分のことじゃないみたいなんだよね。記憶っていうより、記録って感じ」
「そう、なんですか…」
夢からさめたみたいに、久人さんの口調はいつもどおり、明るくて軽快だ。「そうなんだよ」と肩をすくめる姿は、どこか他人事ですらある。
「高塚に入ってからの記憶は、昔の自分だなって思えるんだけどね。まあ実際、別人になったようなもんだし、仕方ないよね」
私はなんと答えたらいいかわからず、曖昧に微笑んだ。久人さんは気にする様子もなく「というわけでね」と首をかしげて私を見る。
「俺はそもそもの存在意義が、後継ぎであることなんだよ。ようやくその意義を果たせるときが来たわけ」
「はい、そこは理解しました」
うなずいた私に、妙に熱心な視線が注がれる。
「結婚も、たしかに、しなきゃいけないからしたんだけど、それは、嫌々したって意味でも、誰でもよかったって意味でもないよ。そこはわかるよね?」
「誰でもよかったって、当初おっしゃってましたよ」
「あ、そういう意地悪言うんだ?」
久人さんの顔がふてくされる。私は笑い、身体ごと彼のほうを向いた。
そこでまた、ふと口をつぐむ。
「俺は、この人たちの息子になりたいと思った」
ようやくわかった気がした。久人さんの、育ての両親への、深い尊敬と感謝。私が他人行儀だと感じたものは、彼からのふたりへの敬意であり、礼節だったのだ。
──桃は、ご両親の思い出を、楽しそうに話すんだね。
久人さんも、お義父さまとお義母さまのことが好きなんだ。彼らが誇れる息子でありたいと思っている。自分を選んでくれたことを、後悔させまいとしている。
ふいに、久人さんが私の手を、きゅっと握り直した。
「…っていうのが、昔の記憶。でもね、このあたりのことって、自分のことじゃないみたいなんだよね。記憶っていうより、記録って感じ」
「そう、なんですか…」
夢からさめたみたいに、久人さんの口調はいつもどおり、明るくて軽快だ。「そうなんだよ」と肩をすくめる姿は、どこか他人事ですらある。
「高塚に入ってからの記憶は、昔の自分だなって思えるんだけどね。まあ実際、別人になったようなもんだし、仕方ないよね」
私はなんと答えたらいいかわからず、曖昧に微笑んだ。久人さんは気にする様子もなく「というわけでね」と首をかしげて私を見る。
「俺はそもそもの存在意義が、後継ぎであることなんだよ。ようやくその意義を果たせるときが来たわけ」
「はい、そこは理解しました」
うなずいた私に、妙に熱心な視線が注がれる。
「結婚も、たしかに、しなきゃいけないからしたんだけど、それは、嫌々したって意味でも、誰でもよかったって意味でもないよ。そこはわかるよね?」
「誰でもよかったって、当初おっしゃってましたよ」
「あ、そういう意地悪言うんだ?」
久人さんの顔がふてくされる。私は笑い、身体ごと彼のほうを向いた。