最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「私、なにができるでしょうか」

「わからない。俺も自分になにができるのかわからないまま、二十年たっちゃった」


首を振ると、髪がさらさらと揺れる。

両親の前では完璧でありたいと願う久人さんにとって、このお兄さんのようないとこだけは、気をゆるめることができる相手なのかもしれない。

本人が、それを意識しているのかどうか、わからないけれど。


「桃子ちゃん、あいつを見捨てないでやってね」


その声に、私ははっと顔を上げた。それまでうつむいていたことにも、同時に気がついた。必死に首を振る。


「見捨てたりしないです」

「この間、バーでね、桃子ちゃんを追いかけてったはずの久人が、なんでかひとりで戻ってきたときさ、なにやってんだお前って、俺、叱ろうとしたんだけど」


できなかったの、と樹生さんが頬杖をつく。


「真っ青なくせに頭に血上らせてるし、怒ってるんだか悲しんでるんだか、なんかもう、様子がめちゃくちゃでね。どうした、って思わず聞いたわけ」

「あっ、あのときは…」

「『桃が男といた』って、もう、聞こえないくらいの小さい声で、それだけ言うの。俺、こいつ泣きだすんじゃないかって心配になってさ」


樹生さんは、顔をしかめるみたいにしてははっと笑って、それからふと、表情を和らげた。


「あんな久人、はじめて見たよ」


ねえ、久人さん。

みんなあなたを好きです。大事に思っています。高塚じゃなくても、後継ぎじゃなくても、変わりません。

どうしたらそれを、信じられるようになりますか?


「桃子ちゃんは、久人にとって、なにか特別なんだと思う」

「そうでしょうか…」

「そうだよ」


樹生さんは迷いなくうなずき、私を見つめた。
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