最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「桃がつくったってだけで、基礎点高めだけどね」

「嘘です。久人さんの採点って、ほんとシビアで容赦ないじゃないですか」

「ムードがないなあ。こういうときは、ほんとですか、って赤くなっておけばいいんだよ」


無責任なことを言いながら、寝室へ入っていく。

まったく、どの口で言うのか。出来がいまいちなものには、『五十五点』とか本当にいまいちな点数をつけるくせに。

だけど、どんなに低い点数の料理も、残さず食べてくれる。


「週明けから、毎日ファームに出勤するよ。仕事の整理に集中して、二週間で片づける。手伝ってね、桃」

「はい」


私はそばに佇み、彼が上着を脱ぎ、ネクタイをほどき、ワイシャツを脱ぐのを見つめていた。もしかしたら彼が、自分のものだと思っていないかもしれない身体。


「あの…、さみしいって声が聞こえてきます。社内から」

「そっか」

「ファームのほかでも活躍されてますし、久人さんも、力を注いだ会社を離れるのは、心残りだったり、さみしかったり、しますよね…?」


白いTシャツをかぶりながら、久人さんが怪訝そうに眉をひそめた。


「そういうことがないように、片づけるんだよ」

「それはそうでしょうけれど、でも、気持ちはそんな、簡単には」

「だから、最初から決まってたことなんだって。父さんというか、高塚っていう血統との約束なんだよ、これは。さみしいとか心残りとか、そういう次元の話じゃなくてさ」

「だけど、楽しまれてましたよね? お義父さまは本当に、久人さんがこれまで築いた実績や人脈を、すべて捨てることを望んでらっしゃるんでしょうか」


一族の思惑はどうあれ、お義父さまがそこまで頑なに、久人さんを決められたルートに乗せようとするとは思えない。そんなに凝り固まった方じゃない。

なにも全部を捨てなくても、彼らの期待に応える方法はあるんじゃないのか。そう思っての言葉だった。

けれど久人さんは、ますます眉根を寄せるだけだった。


「望むとかそういう、個人的な問題じゃないんだよ」

「私が気になるのは、お義父さまのお気持ちなんです。彼が久人さんになにをお望みなのか、きちんとお聞きになったほうがいいんじゃないかって」

「どういうこと? 俺は期待されてないってこと?」

「逆です!」
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