最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
09. 知らない、彼
『おはよ、元気にしてる? 連絡もだんだんよこさなくなって、薄情者』
「おはよう、ごめん、元気だよ」
月曜日の朝、千晴さんから久しぶりの電話がかかってきた。
クローゼットの前で、会社に着ていく服を選んでいた私は、ベッドの中の久人さんがまだ眠っているのを横目で確認し、そっと寝室を出た。
さすが千晴さん、私からのSOSを感知したのかもしれない。久人さんに関するもろもろを、相談したいと思っていた。
だけどできない、と決めたところでもあった。
事情が繊細すぎて、たとえ千晴さんにでも、おいそれと話せないと思ったからだ。
『まあ、便りがないのは、うまくやってるってことだろうと信じてはいるけど。でも桃子は、ため込むからな』
ぎくっとした。勘のいい千晴さんは、私の動揺に気づいただろう。
だけど勘のよさと同じくらい、私のことも理解している彼女は、それ以上追及することはなかった。
『きついと思ったら、私じゃなくてもいいから、誰かに話すのよ。解決してくれる相手を探す必要はないの。話を聞いてくれる人を、見つけるのよ』
「うん、ありがとう」
昔からの彼女の教えだ。相談は、心を楽にするためのもの。なんとかしてもらおうと思っちゃダメ。そうしたら、いつまでも相談相手が見つからない。
──気持ちを理解して、そうだねって受け止めてくれる人さえいればいいの。そういう人に支えてもらって、問題を解決するのは桃子、あんた自身よ。
通話の終わった携帯を握りしめ、廊下に佇んだ。
だけど千晴さん、今回ばかりは、全部を誰かに打ち明けるのは難しい。
久人さんの妻であるのは、私しかいないんだもの。
「もーも」
「きゃあ!」
いつの間にか久人さんが起きてきていたらしく、いきなりうしろから抱きしめられて、私は悲鳴をあげた。