鬼が往く
格闘技で言えば、銀二が先手必勝の先の先なのに対し、神楽坂は交差法(カウンター)を得意とする後の先だった。

「只のチンピラの喧嘩殺法に、俺は倒されへんぞ。路上の喧嘩レベルで、俺には勝てへん」

神楽坂は構える。

「……」

立ち上がる銀二。

そして煙草をポケットから取り出し、それを咥えて火を点ける。

「…何の真似や、降参か?」

「……」

銀二は薄く笑った。

「拳法だか何だか知らねぇが、拳銃(チャカ)や刃物(ヤッパ)相手に磨いてきた喧嘩屋のやり方…見せてやるよ」

銀二は再び距離を詰めてきた。

ボクシングで言う所のピーカーブースタイルを思わせる構えではあるものの、一直線に突進するだけ。

フェイントも何もありはしない。

「馬鹿の一つ覚えが、喧嘩屋のやり方か?」

嘲笑する神楽坂。

左ストレート、右フック、バックスピンキックと連続攻撃を仕掛ける銀二。

だが当たらない。

先程同様、銀二の攻撃を捌き、躱す。

神楽坂の防御は、まさに鉄壁だった。

「もう飽きたわ。期待外れやったな。沢渡」

攻撃を捌き切り、神楽坂はトドメの一撃を放とうとする。

が、次の瞬間。

「!!」

銀二が口から噴き出した火の点いた煙草が、神楽坂の顔面に当たる。

思わず目を閉じる神楽坂。

同時に一瞬、動きを止めてしまう。

その一瞬の隙に、銀二は神楽坂の両耳を強く叩いた!

更に硬直時間が長くなる神楽坂。

そこへ、銀二の頭突きが顔面にヒット!

トドメは心臓の位置への渾身の右ストレート!

「ぐ…はっ!」

心臓への強い打撃に、神楽坂は一撃でダウンを喫した。

勝つ為にはどんな手段でも使う。

喧嘩屋としての姿勢が、勝利をもたらした。

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