鬼が往く
一旦距離を置き、2人は睨み合う。

「はぁー…はぁー…はぁー…はぁー…」

どちらも顔面は血塗れ、打撲、内出血は数知れない。

「あー…気持ちええのぅ…」

根津が呟く。

「関西にゃあ、俺とガチで張り合える奴はおらんさかいに…こんな喧嘩で気分のええ思いしたんは久し振りや…」

「……」

血塗れの顔で、銀二が薄く笑う。

「関西明石組にも、テメェみたいな奴がいるんだな…あの椎名とかいう、腐った奴みたいなのばかりかと思ってたぜ」

「あのクソと一緒にするなや」

フッと笑う根津。

「俺は椎名とは関係ない。俺は俺の意思で、オドレの命(タマ)ぁ狙ったるわい」

インターバルも終わり、銀二は拳を鳴らす。

「休憩はこんぐらいでいいだろ。それとも降参するか?」

「誰に物言うとんじゃい、ボケが」

根津もジリジリと前に出る。

そして両者は一気に距離を詰め、互いにノーガードの殴り合いを始めた。

どちらも何発となくクリーンヒットを貰っている。

利き腕での一撃を食らう度、目の前に火花が飛び散り、意識を刈り取られそうになる。

だがそれを踏ん張り、歯を食い縛り、根性だけで耐え抜いて、反撃の拳を繰り出す!

「がっ…ははははっ!やっぱ素手喧嘩(ステゴロ)に限るで!」

銀二の拳を幾度となく食らいながら根津が言う。

「当たり前だ…凶器(どうぐ)使うようなヘタレのチンピラと一緒にすんな。俺ぁ素手喧嘩師(ステゴロし)だ!」

殴りながら銀二が吠えた。

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