鬼が往く
警視庁氷室署・宝塚 紗智(たからづか さち)。

身分証明書にはそう書かれていた。

「警察か?」

「まぁね」

紗智は身分証明書をしまう。

「で?俺をしょっ引くのか?」

悪びれもせずに言う銀二。

「本来ならそうすべきとこだけど、見逃してあげる。大事の前の小事だしね」

「俺が小事だってのか」

「あら、気を悪くしないで」

紗智はクスッと笑う。

「大事の前なのは本当なの…さっきの関西明石組若頭・椎名 千春…アイツが言ってたのは本当よ」

「さっきのヘタレがか?」

煙草を咥え、ライターで火を点けながら銀二が言った。

彼はまだ知らない。

先程の小競り合いが元で、東京全てを巻き込む大規模な抗争が始まる事を。

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