秘書と野獣
「…俺はガキじゃねーぞ」
「はい。もちろん知ってますよ」
だったらんなことやるんじゃねーよ。そう心の中で零しながら、連日の疲れが溜まっていた俺は、自分でも気付かないうちにそのまま瞼が落ちていた。
時間にすればたいしたものじゃなかったと思う。
だが、目が覚めた後自分の失態にこの上なく恥ずかしくなると同時に、たった数分の間に驚くほど体が軽くなっているのに気付いた。わけのわからないこの事態に唖然として自分を凝視する俺に、
「少しでもお力になれたのなら嬉しいです」
あいつははほんのりと笑いながら言ったのだった。
それ以降、俺は何かにつけてあいつに膝枕を命じるようになった。
断じて誓うが、そこに性的いやらしさは欠片もない。あいつを女として意識したことはないし、それはあいつにとっても同じだろう。
それに、僅かでも下心があれば、あいつはきっと受け入れてはいない。俺に対しては昔から意見を言えていたし、何よりもあのジジィの一件以降、嫌なことは嫌と言っていいんだと懇々と言って聞かせていたから。
疲れが溜まっているとき、むしゃくしゃするとき、時には特に理由がなくても。
節目節目に行われるこの奇妙な儀式は、月日と共に俺たちにとって「当たり前の日常」として根付いていった。