秘書と野獣
「お前昼はどこにいた?」
「____え?」
相変わらず気配を感じさせずに目の前に現れた人物に驚きつつも、すっかりそのことに慣れてしまった頭はすぐに冷静さを取り戻す。
「どこ…と言いますと?」
「向かいの通りに野上といただろ」
「え…」
どうしてそれを。思わずドクンと激しく鼓動が打つ。
けれどそんな動揺をおくびにも出さずにニッコリ微笑んだ。
「はい。外に行こうと思ったらたまたま彼と会ったので。だったら一緒にということでランチに行ってきましたけど…何か問題でもありましたか?」
「……」
本当は拝み倒して連れていったというのに。自分でも引くくらいにサラサラと嘘が口を突いて出ていく。それでも、この程度のことで動揺していては社長にばれずに辞めるなんて夢物語もいいところだ。
万事用意周到に、一点の曇りなく。
「あいつに手ぇ握られてただろ」
「えっ…」
まさかそんなところまで見られていたなんて。
…というかもしかして、あの場にいた…なんてことはないよね?
そのまさかの可能性に、嫌な汗が背中を伝って落ちていく。
いや、彼ほどのオーラを放つ人間なら同じ空間にいれば周囲だって黙ってはいないはず。180を優に超える長身にスーツの上からでもわかるほど引き締まった体躯。整髪料で後ろに撫でつけられた髪によって整った顔は惜しげもなく出され、見た人の目を必ず奪う。
それこそが我が上司、進藤猛、その人だ。