秘書と野獣
「彼女は社会人としてはまだまだ未熟だ。だが経験値では計れないものを持っている子でもある。私としては決して失いたくはない大切な部下だよ」
「…重々承知しております」
「…ただし決めるのは彼女自身だ」
「…え?」
どう説得しようかと思案していた俺に返ってきたのは思いも寄らぬ一言。
「部下でもあるが、実の娘のように大事な子だ。生半可な気持ちではやれないよ」
「もちろんです」
「彼女自身の人生だ。私がどうこう決める権利もない。彼女が本心からそれを望むのならば…私はそれに従うまでだよ」
「…! 有難うございます…!」
「まだやると決まったわけじゃないんだがね」
はははと高らかに笑った服部社長こそがウサギを説得したのだと知るのは…まだずっと先の話。彼の言葉通り、娘のように大事にしてきた彼女を何故俺に託す気になったのか。あるいは彼にしかわからない何かがあったのかもしれない。
いずれにせよ、後に彼のその懐の深い決断に大いに感謝することとなるのだが。