秘書と野獣
そうして一年近くの時間をかけてようやく俺の元へとやって来たウサギは、期待していた以上に俺の支えとなってくれた。
当然ながら秘書に必要な知識も経験もない。だが、誰よりも努力を惜しまない奴だった。その原動力となっているのは、ひとえに家族のためにという一心、ただそれだけ。その想いこそが何よりも彼女を強くしていた。
分不相応な待遇を準備して迎え入れられたことに、あいつは相当な後ろめたさを感じているようだった。俺としては服部さんが娘同然に可愛がってきたウサギを引き抜くからにはそれ相応の準備をして然るべきだと考えていたし、今は未熟でもあいつならそう遠くない将来に立派な秘書として成長してくれるという確信もあった。
言わば先行投資のようなものだったのだが____
そこに同情がなかったかと言えば否定できないのが現実だ。
あいつの家庭環境については服部さんから聞かされていた。
ウサギの頭を占めるのは高校生の弟とまだ小学生だった妹のことだけ。彼らが一人前に独立するまでは一切自分の事にかまけない。
あいつだって成人して間もなく、本来ならばまだまだ遊んでいたい時期だろう。だというのに遊びはおろか恋愛にも一切興味を示さず、ひたすら家庭と仕事に没頭する日々。
服部さんはそんな彼女を心配しているようだった。もしかしたら、目に見えぬ呪縛にかかっているようですらあったあいつを救いたいという思いもあって、少しでも年が近い俺に託そうと考えたのかもしれない。