秘書と野獣
「ウサギ、来いっ!!」
今日もまた何の前触れもなく命令する俺に、ウサギはいつものようにはいはいと無言の溜め息をついてソファーに腰掛ける。不機嫌さを全く隠す気のない俺は、速攻でその上に転がるとぶすくれた顔で静かに目を閉じた。
「…………社長、女性には優しく、誠実にですよ」
「俺は何も言ってねーぞ」
「言わなくても大体のことはわかるようになっちゃいましたよ。こういうときの社長は意中の女性とうまくいかなくてふてくされてるんです」
お前はエスパーか?! しかも俺が悪い前提で話すってどういうことだよ!
こいつは常に「誰かのために」という精神で動いているからか、人の機微にはとかく敏感だった。こうして何も言わずに状況を察知し、それに触れるべきでないと判断した時には無言を貫く。
敢えて口に出すときはそうすることで俺の気持ちが軽くなると思ってのことだ。
「……女ってのはめんどくせぇ」
こうして零すのも何回目のことだろうか。
「いつか社長にも運命のお相手が見つかりますよ」
そうしてウサギは決まったように言って聞かせるのだ。そういうお前こそどうなんだよと言いたいところだが、今のこいつにとってそれは負担でしかないとわかっているからこそ、俺はそれ以上口を開くことはしない。