秘書と野獣
「…社長? 眠っちゃったのかな…」
ぽつりと呟かれた柔らかな声を聞きながらふと思う。
いつかこいつも結婚する時がくるのだろうか。
誰か一人の男のものになって、俺の手を離れていくその日が。
ウサギには誰よりも幸せになって欲しいと心の底から思う。
いつだって自分の幸せなど顧みずがむしゃらに突っ走って来た奴だから。
こいつがいつか誰かのものになる…
不意に浮かんだその未来図に、何故かもやもやと得体の知れない靄がかかっていく。男親は皆こんな気持ちになるのだろうか。
…生半可な覚悟の男にウサギをやるなんてことは絶対に許さねぇ。
この日、あいつに膝枕をさせるようになって初めて、起きても尚すっきりしないもやもやを抱えたまま、俺は仕事へと戻ったのだった。