秘書と野獣


「社長? どこか具合でも悪いですか?」

「 ! 」

突如目の前に現れたドアップに思わず体を引いた。見ればいつからそこにいたのか、ファイルを手にしたウサギが覗き込むようにしてデスクに身を乗り出している。

「あ、あぁ…悪ぃ。昨日飲み過ぎてぼーっとしてたみたいだ」

「あぁ、そういえば慎二と飲みに行ったんですよね。久しぶりだから喜んでましたよ」
「少し会わない間にあいつもいっちょまえに社会人が板についてきたな」
「ふふ、そうですね。なんでも社長を目標にしてるみたいですよ?」

「は? 俺を?」

「はい。ワイルドで男気に溢れた社長が慎二の憧れみたいです」
「おいおい、昨日の様子じゃちっともそんな風には見えなかったぜ?」
「あはは、そりゃあ本人を前にすればそんなものですよ。でも出会った頃から言ってましたよ。俺も社長みたいな男になりたいって」

全くもって寝耳に水だ。男臭いと言われればそうかもしれないが、俺は人に憧れられるような人間じゃない。まぁ仕事に関してはそれなりにやれていると自負もしているが、一人の人間としてはとても褒められたもんじゃない。根本的にだらしないし、女に関してもそうだ。

憧れられるような男なら一人の女くらい幸せにできてなんぼだろ。

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