秘書と野獣
「本当は今週中でいいって言おうと思ったけどな。生意気なウサギには明日中で充分だろ」
「は…え、えええぇっ??!!」
「期待してるぜ、ウサギちゃん」
「ちょっ、社長! いくらなんでもこれは無理ですってば! 社長ぉっ!!」
必死の訴えも虚しく、一切の反論は聞かないとばかりに目の前の扉は閉ざされてしまった。行き場を失った右手と共に、自分を見上げるかのように鎮座した書類の山にガックリと項垂れる。
「あうーー、何が野獣の逆鱗に触れちゃったのよぉ…」
当然ながらそんなこと知る由もない。
けれど、はっきりしているのは社長が一度口にしたことは絶対に撤回する人ではないということだけ。つまりはやるしかないのだ。
「……やってやろーじゃないの」
立つ鳥跡を濁さず。
彼の元を去っていくのならば、せめてあいつは仕事だけはよく頑張った、そう言われる自分でありたい。それが私が彼のためにできる唯一のことだから。
むん!と腕まくりをすると、あっさりと思考を切り替えた私は膨大な書類の山と向き合うのだった。
その扉の向こう側で、社長が見る者全てを震え上がらせるほど恐ろしい眼光でこちらを睨み付けていたなどと考えもせずに。