秘書と野獣


「どうだ?」

「まだ8度ちょっとありますけど、でも今朝に比べるとだいぶ良くなってきてる感じです。汗もいっぱいかいてたし、ほんとにあと少しだと思います」
「そうか。何か困ったことがあったらいつでも言えよ」
「あの子もテストまでには元気になってくれると思います。買い物もすごく助かりました。本当にありがとうございます」
「ついでだから気にすんな」

「ふふっ…はい」

こいつの真っ直ぐな感謝の言葉はいつもむず痒くなってしょうがない。
プイッとそっぽを向いた俺にクスクス笑ってるのが癪だが、若干顔が熱を持ってるのを自覚してるだけに睨むこともできやしねぇ。

「じゃあ俺はそろそろ___」

「あの! よかったらご飯食べていきませんか?」
「…え?」
「いえっ、全然大したものなんてなくて申し訳ないんですけど! せめてものお礼に食べていってもらえたらって。…あ、でも何か予定があるのなら…」

「食う」

「えっ?」
「言われてみれば腹減ったな。つーことで遠慮なくもらってく」
「は…はいっ! じゃあ急いで作るので待っててください!」
「別に急ぐ必要はねーよ。適当にゴロゴロしてるから気にすんな」

勝手知ったるで既に我が家のように馴染んだ部屋にごろんと転がる。
一瞬だけ目を丸くしたあいつも、それはそれは嬉しそうに破顔して頷くと、足早にキッチンに入って忙しなく動き出した。

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