秘書と野獣
……こいつと結婚した男は幸せになるんだろうな。
ふとそんな思いが頭を過ぎった。
俺ですらそう感じるのだから、こいつを一人の女として愛する男ならば尚更そう思うだろう。こいつの築く家庭は心の安寧を与えてくれる。
揺らがずに思い浮かぶ未来図だ。
だがそれ以上に思うのは、ウサギこそが心穏やかに愛される未来であって欲しいということ。人に与えてばかりだったこいつが、ただひたすらに甘やかされ、愛される。そんな喜びに満ち溢れた未来であって欲しい。
そう願わずにいられない。
俺もこいつのような親に育てられていればもっと未来に希望が持てたのだろうか。
「……社長? どうかしましたか?」
「…え?」
いつの間に目の前にいたのか、ウサギが心配そうにこちらを伺っている。
「あぁ…悪い。この家にいるとなんか落ち着くんだよな。だから何も考えずにぼーっとしてた」
「ふふ、そうですか? じゃあご飯できたので座ってくださいね」
「あぁ。サンキュ」
ニッコリと見せる陽だまりのような笑顔に、ウサギは良き妻になり良き母になるのだろうなと思った。短時間でいとも簡単に作られた家庭料理の数々に、その思いはより一層強いものとなる。
その隣にいるのは一体どんな男なのか。
そこまで考えてまた得体の知れない靄が湧き上がってくるのを感じ、慌ててそれ以上の思考を停止させた。