秘書と野獣
受け入れるべき現実
「問題は仕事なんだよなぁ…」
こたつに額をゴンゴンとぶつけながら念仏のように呟く。
寒い季節はスウェットに昔祖母が使っていたというお古のえんじ色の半纏を羽織ってこたつにゴー! が私のスタンダード。どんなにダサいと言われようとイモ臭いと言われようとも、私にとってはこれがベストスタイル。
異論は認めない!
「田舎で簡単に仕事なんて見つかるわけがないんだよね…」
少なくともここで磨いてきた能力を活かすような仕事にはそうそう出逢えないだろう。野上君に田舎に移り住むと宣言したはいいものの、実際のところそこに頼れるような人は誰一人いないのが現状だったりする。ただ母方の祖母が住んでいたというだけの場所。
何故そんな場所を選んだかと言えば、そうでもしなければあの社長に見つけ出されて連れ戻されるに違いないと思ったからだ。
私はこれからとんでもない不義理を犯す。
長年お世話になった社長にきちんと挨拶すらせず、まるで夜逃げのように目の前から消えようとしているのだ。当然その事実を知った社長は烈火の如く怒り狂うだろうし、何が何でもそんな私を見つけ出そうと躍起になるだろう。
それがわかっているからこそ、社長には予想もつかない場所へ逃げる必要があった。
「プーが見合いなんてできるわけないっての…」
追及されて咄嗟に出た一言だったとはいえ、我ながら大胆なことを言ったもんだと呆れ返る。まぁ実際私のような人間が真面目に結婚を考えるならば、現実問題見合いするくらいしか方法はなさそうなんだけど。
「結婚、かぁ…」