秘書と野獣

「チッ…! おい莉緒、こいつの上着を持ってこい」
「えっ?」
「すぐに夜間病院に連れて行く。今からだと何時に帰って来れるかわからない。最悪泊まりになる可能性もあるから、お前は戸締まりをしっかりして寝てろ」
「進藤さん…ありがとうございます。おねえちゃんをよろしくお願いします!」
「あぁ。おいウサギ、もうすぐで楽になるからしっかりするんだぞ!」

「う…」

朦朧としているウサギを抱き上げると、莉緒から受け取った上着をかけて入ってきたばかりの部屋を出て行く。
つくづくタクシーを待たせておいてよかったと思う。車に乗り込むと、最寄りの総合病院へと急いだ。

ぐったり脱力したまま体を預けるウサギに、こいつはこんなにも小さかっただろうかとあらためて思う。小柄な女だとは思っていたが、こうして直に触れると思っていた以上にずっと細くて軽いことに驚きを隠せない。


「……無理しすぎだ、バカ」


小さく呟いた声がウサギに届くことはなかった。

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