秘書と野獣
病院へと行くとなんと40度以上の熱があるということが判明し、さらには脱水症状を起こしていることもあってすぐに点滴を打たれた。
医者には風邪に加えて血糖値が低く、おそらく過労もあるだろうと言われた。体調が優れなかったのは昨日今日だけの話ではないだろうと言われ、何故今日まで気付いてやることができなかったのかと、自分のふがいなさを激しく悔やんだ。
ただでさえ自分のことはなおざりにしがちなこいつだ。フルで仕事を終えた後は家事に加えて莉緒の看病に専念し、知らず知らずのうちに疲労が蓄積していたのだろう。体調の異変を感じながらも周囲に迷惑をかけるわけにはいかないと気丈に振る舞い、結果こうして体が悲鳴を上げた。
相変わらず気の使い方が間違ってるだろうと怒鳴り散らしてやりたいところだが、人のためにここまで尽くすこいつにそんなことが言えるはずもなかった。
その後点滴が効いてきたのか、ようやく容態が安定したウサギを家に連れ帰ったのは既に日付が変わった後だった。
ウサギのことが心配でたまらなかったのだろう。莉緒はダイニングテーブルに突っ伏した状態で待っていた。起こすのは可哀想だが、ここで寝てまた体調を崩しては元も子もない。揺り起こしてウサギの状況を説明すると、やはり姉思いのこいつは自分のせいだと涙ぐんでいた。
「お前のせいじゃねぇ。誰だって調子の悪いときはあるもんだ。お前がそんな風だと悲しむのはこいつだぞ」
その通りだと思い至ったのか、莉緒はキュッと涙を拭うと、あらためて感謝の言葉と共に深々と頭を下げた。
つくづく義理堅い姉妹だと思う。これもまたウサギの影響かと思うと、何とも言えない感情が俺の中を埋め尽くしていく。