秘書と野獣
4
「おはようございます。あの、この前はたくさんお世話になったみたいで…本当にありがとうございました! おかげさまですっかり良くなりました」
「あぁ」
「あの…怒って、ますか?」
「怒ってねぇよ」
「でも…」
「……」
シン…と落ちた沈黙に、すっかり血色の戻ったウサギの顔が違った意味で変化していく。今にも泣きそうなほど悲しげなその様に、一体お前は何をしてるんだと慌てて平静を装う。
「だから怒ってなんかねーよ。昨日は遅くまで飲んでたから二日酔い気味なだけだ」
「そう…なんですか? …あ! ちょっと待っててくださいね!」
「 ? 」
閃いたようにポンと手を叩くと、忙しなく部屋から出て行ったウサギはガサゴソと何やら隣室で音をたて、そうして長くせずして戻って来た。
肩で息をするほど慌てなくてもいいだろうがよ。
「これ、二日酔いに効くみたいなので。どうぞ」
「……サンキュ」
「とんでもないです。こちらこそ、本当にありがとうございました。また今日から頑張ります!」
「あぁ」
ニッコリと向けられる無邪気な笑顔が…痛い。
こんなものを常備しているのは他でもない上司である俺のためだ。思わず目を逸らしてしまった俺に一瞬ウサギが傷ついた顔をしたが、すぐに何事もなかったかのように笑うと、そのまま一礼して執務室を後にした。