秘書と野獣
「……何やってんだよ、俺は」
深い溜め息と共にゴンッと額をデスクに落とす。
心の中を埋め尽くすのはひたすら自己嫌悪、自己嫌悪、自己嫌悪。
…あの日。
眠るウサギに気が付かないうちにキスをしていた俺は、その後あいつの寝顔を見つめながら唐突に我に返った。
まるでパチンと風船が弾けたように、それは一瞬で。
自分のしでかしたことが信じられず、呆然とした後に襲ってきたのは激しい罪悪感。無抵抗の病人相手に一体何をやっているのか。
いや、それ以前に家族同然に大事にしてきた女に何をしたというのか。
散々女としては見れないと豪語してきた相手に。
ギリギリまであいつを見守るつもりが、結局は夜明け前に逃げるように部屋を後にした。ほんの僅かでも仮眠を取らなければと頭ではわかっているのに、激しい自責の念が自分の中を覆い尽くし、その日は完徹のまま仕事に行くはめになった。
一睡もしていないのにも関わらず眠気は一切感じず、その代わりに襲ってくるのは自己嫌悪の嵐。とても正面から顔向けできるような精神状態ではなく、不謹慎だが、あいつがすぐに回復出来ない状態で助かったとすら思った。