秘書と野獣


何故俺はあんなことを。


…いや、あれはほんの出来心だ。
いつもとは違うあいつの姿に庇護欲を掻き立てられ、可愛さ余ってつい魔が差してしまっただけ。そうに違いない。

そう言い聞かせる一方で、成人した娘相手にキスするバカな父親がどこにいんだよともう一人の俺が激しく責め立てる。これまで俺が付き合ってきたような女ならキスくらいと笑って誤魔化せるが、ウサギはそうじゃない。
決して、たとえ冗談でもそんなことは許されないし、すべきではない相手なのだ。

だというのに何故俺は…


「あーーー、くそっ! 最近のこのイライラは一体なんなんだよ…!」


ここ一ヶ月の間に何度同じことを自問自答したことだろう。
それでも靄がかかり続けたままの頭を、セットが崩れんばかりの勢いでグシャグシャと掻き回した。

< 147 / 266 >

この作品をシェア

pagetop