秘書と野獣
「そういえば華ちゃん、この前会った平澤君だけどね」
「…えっ?!」
数ヶ月に一度の恒例行事となっている服部社長との会食の場で、彼が突然思い出した様に口を開いた。出てきた男の名前に、それまで楽しそうに笑っていたウサギが目に見えて動揺し始める。
「どうやら随分楽しかったみたいでね。もしよかったらまた会ってもらえませんかと頼まれたよ」
「あ…」
…なんだ? 一体何の話をしてる?
訝しむ俺をチラッと横目で伺うようにウサギがこちらを向く。直後思いっきり視線がぶつかり合うと、まるで悪事が親にばれてしまった子どものように慌てて前を向いた。
…挙動不審にもほどがあるだろ。
「どうだい? 彼は本当に好青年だし、僕としては前向きに考えてもらえたら嬉しいんだが」
「え…あの、その…」
「もちろん無理にとは言わないよ。君がその気になってこそだからね。ただ、彼は僕も認める人柄だから、華ちゃんもそろそろ自分の幸せについて目を向けてもいいんじゃないかと思うよ」
「は、い…ありがとうございます。ゆっくり考えてみます」