秘書と野獣
「君も知ってるだろう、平澤商事の跡取り息子を」
「あぁ…そうですね」
「この前彼といるときに偶然華ちゃんに会ってね。彼も以前から彼女のことは知っていて気になっていたようなんだよ。願ってもない偶然に何が何でもと彼のたっての願いで一緒に食事をすることになってね。華ちゃんも戸惑ってはいたが後の方では純粋に楽しんでるようだったよ」
「…そうですか」
「私としては良縁になるといいと思ってるんだがね」
そうはっきりと口にした服部社長が信じられず、思わず凝視してしまった。
これまで実の娘のようにウサギを可愛がっていたが、こと恋愛に関しては一切口出ししているところを見たことがない。
少なくとも莉緒が自立するまでは本人に全くその気がないというのを俺たちはよくよくわかっているからだ。
俺ですら間接的にウサギとの仲を取り持つように頼まれるのだから、服部社長ならそれ以上に違いない。だがそのいずれもやんわりとはね除けてきたはずの彼が、何故突然。
瞠目する俺をよそに、社長はニッコリと笑う。
「考えてみれば彼女も二十代を折り返しただろう。いくら本人にその気がないとはいえ、そろそろそういう縁があってもいいんじゃないかと思ってね」
「ですが…」
「もちろん無理に押し付ける気などないよ。私だってあの子を実の子のように大事に思っているからね。その辺りの男にやるなんて論外だとも思っている。だが平澤君は真の好青年だ。少なからず彼女に好意を抱いているようだし、偶然会ったのも一つの縁なんじゃないかと思ったんだよ」
「……」