秘書と野獣
あの男とウサギが仲良く寄り添う姿を想像するだけでまたあの靄が膨れ上がってくる。最近は何をしていてもこれが完全に消えることはなくなり、日々イライラが募るばかりだった。
あの服部社長がお膳立てするほどの男なのだ。よほどのことがない限りウサギは大事にしてもらえるだろうし、幸せな未来を手にすることができるのだろう。
彼女には誰よりも幸せになって欲しい。あの家族には分け隔てなくそう思うが、やはりウサギに対する想いは人一倍強いものがある。
ならば、俺は一切の口出しをせずにことの成り行きを静観していればいい。
その先にウサギの幸せがあるのならば____
「くっそ…!」
だがどこかでそれを認めたくないと思う自分がいる。
あいつはまだ若いから。
今のあいつにはそれは負担でしかないから。
なんだかんだとそれらしい理由をつけて、結局あいつの可能性を狭めているのは他でもないこの俺自身だ。慎二の言っていた通り、言ってることとやってることが甚だしく矛盾している。