秘書と野獣
「……あぁ」
そう答えた俺に女はご満悦そうに紅を引いた口元を上げた。やや前屈み気味にカウンターに体を預けているのは間違いなく谷間を強調するためだろう。
そこまで考えると何故だか笑えてきた。
「何がおかしいの?」
「…いや、単に思い出し笑いだ」
「ふぅん? 思い出し笑いをする人ってよくエッチだなんて言われるけど…あなたもそうなのかしら?」
「……」
こういう女はどうすれば自分を一番魅力的に見せられるかをよく知っている。全てを計算した上でやるのだから、下心のある男なら簡単に流されていくだろう。
実際、俺だって鼻の中で笑いながらもこういう女とその日だけの関係を楽しんだことは何度もある。後腐れのない関係こそが俺のような人間には最適だとわかっているから。
だからこの誘いにも乗ってやればいいだけだ。
ただいつもと何ら変わらない日々を過ごせばいい。
煩わしいことなど全て忘れて、今だけを楽しめばいい。ただそれだけ。
所詮俺はこの程度の人間だ。
そんな俺が、純粋の象徴のようなウサギを幸せにするなんて…できるはずがない。あいつはあいつの幸せをいつか手にして、もっと誠実な男に愛されればいい。俺はそれを心から祝福し、遠くからあいつを見守っていければそれでいい。
それで____