秘書と野獣
これまでどんな女性と一緒のところを見ても笑って見送ることができた。
けれど、永遠に一人の者だけに向けられることになった眼差しを、これから先も何も変わらずに近くで見続けることだけは…どうしても無理なのだ。
だから、一度心から笑っておめでとうを伝えるだけで…許してほしい。
「結婚……か…」
もう一度呟いた言葉は今にも消え入りそうだ。
降って湧いたような自分へのプロポーズよりも、それ以上に衝撃となったのはやはり社長の結婚宣言だった。
当事者であるはずの自分のことはふわふわと非現実的なものとしてしか捉えられないのに、社長が口にした結婚は、それはもう鮮明過ぎるほどにリアルなものとして私に襲いかかってきた。
これまで数多の浮き名を流してきた社長が、
それでも決して一人のものにはならなかったあの社長が、
とうとう永遠を誓える人に出会ってしまった。
それははじめから覚悟していた「いつか」だった。
けれど、心のどこかでそのいつかは来ないのではないかと思っていた。
…ううん、そんな日なんて永遠に来なければいいとすら願っていた。
それなのに____
『 ここがいいのか? お前のここは俺が欲しいって言ってるぞ 』
『 俺から目を逸らすんじゃねぇ。お前はずっと俺だけ見つめてろ 』
『 はっ…ァッ…! 』
「…っ、やだっ…やめて…! 思い出させ、ないでっ…!」