秘書と野獣
「ほんと、お前ほどのバカはいねーよ」
口癖のようにあいつにバカバカと言っておきながら、一番愚かなのは他でもないこの俺自身だった。
だがようやくそのことに気付いたからにはもう迷わない。
あいつには幸せになって欲しいとか俺じゃ幸せにできないとか、ごちゃごちゃ並べてた理由なんて本当は取るに足らないほどくだらないことだった。
…そう。本当に大事なことはたった一つだけだったのだ。
「俺が」あいつと幸せになりたい。
ただそれだけ______
ようやく長い迷宮から抜け出した俺の心は隅々まで晴れ渡り、さっきまで心を覆い尽くしていた靄など影も形もないほどに消え去っていた。