秘書と野獣
5
「え。社長引っ越されるんですか?」
「あぁ。近々そうするつもりで物件探ししてるんだけどな」
「へぇ~……」
驚いた後しばしの間が空く。
明らかに何か言いたそうにしながらもそれを呑み込むと、ウサギがやや気まずそうにヘラッと笑った。
「言っとくけど女は関係ねーから。つーか女なんていねぇし」
「え…と、そう、ですか」
「お前全く信じてねーだろ」
「そ、そんなことはないですよ?!」
嘘をつけっ! お前ほどわかりやすい人間はいねーんだよ!
「はぁ…真面目にちげーから。むしろいい加減けじめつけようと思ってな」
「けじめ…ですか?」
「あぁ」
意味がわからないのか、ウサギがこてんと首を傾げる。こいつがよくやる仕草だが、見る目が変わるだけでこんなにも可愛く見えるものかと自分で驚く。
にやけそうな口元を慌てて右手で覆った。
「よくわかりませんけど…いい物件に巡り会えるといいですね」
「…そのことなんだけど。お前も一緒に行かねーか?」
「え? 何がですか?」
「だから部屋探し、一緒にしねーか?」
「………」
言うなり今度こそ完全に意味不明とばかりにポカーンと固まってしまった。
やべぇ、こいつの表情の変化は面白すぎる。
…って、そうじゃなくて。