秘書と野獣

そして問題はそれだけじゃない。
あいつは莉緒が完全に自分の手を離れるまでは絶対に自分の幸せなどに目を向けたりはしない。
それはつい先日昼飯を食ってるときにも嫌と言うほど認識させられた。


『お付き合いとかそういうことは全く考えられないです。そんな気持ちになれないですし、端からそんなつもりもありませんから。こんな枯れ女は世間からは笑われちゃうんでしょうけど、それでもその考えを変えるつもりはありません。 …って、それ以前に私を好きになるなんて奇特な人そのものがいないんですけどね』


それとなく自分の幸せにも目を向けていいんじゃないかと話を振った俺に、あいつは迷うことなくそう断言した。

バカ野郎。その奇特な男ならすぐ目の前にいるんだよ。

どれほどその言葉を口に出そうと思ったか知れない。
だが、その場で真剣に伝えたところでおそらく今日と同じような反応が返ってくるだけで終わりだろう。それどころか、最悪あいつは俺に対して一線引くようになってしまうかもしれない。

俺を好きなのに、潜在意識の中で決して俺を受け入れようとはしない。

それが疑いようのないあいつの現状だった。

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