秘書と野獣
そう呟いた一言は決意表明。
とりあえずは莉緒が自立するまで。
あいつがどんな進路を辿るかまだわからないが、進学するにせよ就職するにせよ、ウサギの手を離れて自分の力で歩けるようになるまで。
それまではウサギの気持ちを尊重しようと思う。
その区切りを迎えた暁には一切遠慮するつもりはない。むしろいつまでも引いてばかりいたら本気でジジィババァになっちまいそうだ。
引き寄せるときは一気に。あいつは絶対に自分の殻を破ることはないとわかっているからこそ、そこを打ち破るのは俺しかいない。
そこに至るまでにどれほどの時間がかかるかわからないのは辛くもあるが、あいつの8年を思えば可愛いものだと思える。
慎重に、だが着実に、確実に。
直接ぶつけることが無理ならば、ガチガチに凝り固まった心の強ばりを少しずつほぐしていけるよう、あいつに対する好意は一切隠すことはしない。
それに気付くような女ではないのは百も承知だが、それでも。
「まずはあいつが好みそうな部屋とインテリアからだなー…」
この地道な努力がいつ報われるのか。
一日でも早くその日よ来いと切実に願いながら、俺は決裁書もそこそこに目の前の画面に不動産情報を表示させるのだった。