秘書と野獣
6
その時は思わぬ形でやって来た。
「莉緒ちゃんきれーーい!」
「幸せになってね~~!!」
純白のドレスに身を包んだ花嫁を取り囲む若い女性達。そこかしこから響くのは黄色い声ばかりで、悲しいかな世代のギャップを痛感する。
ひっきりなしにかけられる祝福の言葉に、新郎新婦も満面の笑みで応えていた。
…そんな妹の姿を、ウサギは少し離れた場所からただ静かに、穏やかな眼差しでそっと見守っている。
高校卒業後、莉緒が選択したのは就職だった。
学力もあったためウサギをはじめとして周囲は進学を勧めたが、彼女の意志は固かった。その理由を口にすることは一度もなかったが、少しでも早く自立してウサギの負担を減らしたいと考えていることは誰の目にも明らかだった。
自分の存在が莉緒の可能性を狭めているのではとウサギは気に病んでいたが、莉緒は決してそんなことは考えちゃいないし、ましてや今目の前で心から幸せそうに笑っている彼女を見ているだけで、その選択は正しかったのだと言える。
就職をした彼女を待っていたのは運命とも言える出会い。営業で度々会社を訪れる男に一目惚れされ、最初はひたすら逃げ腰だった莉緒も、その熱烈なラブコールにとうとう陥落した。さらには二十歳を迎えて間もなく結婚という、まさに急転直下のゴールイン劇だった。
俺があいつへの気持ちを自覚してからもうすぐで3年が経とうしていた。
相手の男は爽やかな好青年という印象で、仕事面でもかなりの有望株。ウサギほどではないまでも、何事にも堅実で慎重な莉緒が選んだのなら間違いないだろうと思える、そんな男だった。
本人が望めばそれなりの規模の披露宴だってできただろうに、莉緒は厳かな式とごく親しい友人達を呼んだパーティを開くだけで充分だと譲らなかった。