秘書と野獣
くしゃくしゃと髪を乱しながらぎゅうっと目を閉じても、皮肉なことに振り払うどころかより一層鮮明にその光景がフラッシュバックしていく。
乱れた髪も。
呼吸も。
汗の滲んだ逞しい筋肉も。
直接耳に吹き込まれた吐息も。
全てが脳裏に、この体に刻みつけられたまま消えてはくれない。
たった一度でいいと決めたのは自分なのに。
一夜の夢だとしても幸せだと思えたのに。
「…っ…やだ……やだよぉっ…」
あの全てが誰かのものになってしまうのだと想像するだけで、息もできないほどに苦しくてたまらない。もうどうやって立っていればいいのかもわからないほどに、これから先の未来が真っ黒に塗りつぶされてしまった。
それでも…
だからこそ…
早く…一刻も早く彼の元から去らなければ。
それが彼の幸せのためでもあるのだから。