秘書と野獣

そうして迎えた今日___新郎新婦は目にも眩しいほどの笑顔で溢れている。

ウサギはそんな幸せに満ち溢れた妹の姿を、目を細めながらただ静かに見つめていた。
彼女にとってもこの急展開は驚き以外の何ものでもなかったようだが、押しは強いが大事なところは全て莉緒の意志を尊重している男の誠実さに触れ、そしてそんな男に全幅の信頼を寄せている莉緒の姿に、自分が反対する要素など皆無なのだと判断したようだった。

莉緒を見つめる表情は母親のそれそのもの。
母親を亡くして後、兄弟で支え合いながら過ごしてきた日々が次々と思い起こされているに違いない。

そのウサギが見せる温かい眼差しの中に、時折寂しさが滲んでいるのに本人は気付いているのだろうか。自分以上に大事な妹が手を離れていくという一抹の寂しさと、無事に独り立ちさせることができたという安堵感。

…そしてふとした瞬間に襲ってくる孤独感。

きっと、自分だけが幸せから取り残されたような感覚に陥っているはずだ。
本人にその自覚は全くないだろうが。

< 170 / 266 >

この作品をシェア

pagetop