秘書と野獣
「おねえちゃん、今まで本当に本当にありがとう。私がこうして独り立ちできたのも、全部全部おねえちゃんのおかげだよ。本当に…ありがとう…!」
「やだ、莉緒ったらそんなに泣かないで。私は大したことなんてしてないから。相変わらず大袈裟ね」
「大袈裟なんかじゃないよ! おねえちゃんは本当に凄い人なんだから! 私の自慢のおねえちゃんなんだからっ!!」
滂沱の涙を流して力説する莉緒に、ウサギは新郎と顔を見合わせて苦笑いだ。
「次はおねえちゃんの番だよ。絶対に、絶対に幸せになってね…!!」
そう言って手渡されたブーケにウサギは困惑の色を浮かべている。
招待された莉緒の友人は当然の如く若い独身女性が多い。ブーケトスを楽しみにしている者だっているだろうに、何故自分なんかに渡すのかと、そういうことなのだろう。
そんな戸惑いなどお構いなしに莉緒は異論は受けつけないとばかりにウサギへとそれを託す。バラの中にウサギが大好きなカサブランカを散らしたそのブーケは、最初から誰のために作ったのかなど考えるまでもなかった。
「進藤さん、どうかおねえちゃんをよろしくお願いします!」
そうして横に立つ俺に意味深に告げる。
「あぁ、心配するな」
迷うことなくそう答えた俺に、莉緒は心の底から嬉しそうに、そして安堵したように微笑むと、何度も頷いて涙を拭った。
当のウサギはと言えばその言葉に隠された意味になど全く気付く気配もなく、相変わらずブーケと莉緒を交互に見ながら恐縮しきりだったが。