秘書と野獣
「あれ? 慎二ってばいつの間にここにいたの?」
「あー、猛さんと会うのも久しぶりだったからさ」
「ふーん…? 今日はこのまま帰るんでしょ? じゃあ途中まで一緒にいこっか」
「あー…いや、今日は彼女のところに行くつもりだから」
「あ、そっか。じゃあ私一人で___わっ?!」
突然グイッと肩を引き寄せられたウサギの体がすっぽりと俺の腕の中に収まる。このまま抱えて俺の家に連れ帰りたいところだが、さすがに今日のところはやめておこう。
「お前は俺が送ってやる。じゃあな、慎二」
「くくっ…はい。健闘を祈ってます!」
「はっ? えっ…健闘ってなにが? 何の話? っていうか社長! そんな引っ張らないでくださいってば…!」
色気なんて微塵も感じられない俺たちのやりとりを、慎二はその姿が見えなくなるまでいつまでも笑いながら見送っていた。