秘書と野獣
「うまいか?」
「それはもう、とっても! 最初は戸惑いしかなかったんですけど…でもやっぱりおいしいものが食べられるって幸せですね! ありがとうございます」
食事が進むにつれ最初の抵抗もなんのその。
蕩けそうな顔で美味しい美味しいを繰り返す姿にこっちまでつられて頬が緩む。昔からこいつはメシを食ってるときが一番幸せそうだ。色気もクソもあったもんじゃねぇが、今の俺にはそんなこいつが一番魅力的に見えるのだからどうしようもない。
もっともっと、その笑顔を見せろ。
俺だけに。
「お前はそうやって笑ってるのが一番なんだから。いくらでも連れて来てやるしいくらでも食え」
そう言った俺にほんのりはにかんだかと思えば、やはりすぐさま微妙な顔へと変化していく。
「あの、連れて来てもらったことは本当にありがたいんですけど…こういう場所は最初で最後でいいですからね」
「…は?」
楽しい雰囲気を吹っ飛ばすには充分な言葉に、肉を切り分けていた手が止まった。