秘書と野獣
「おねえちゃーーーん!」
「…あ。久しぶり~! ごめんね、待った?」
「んーん。私達も今来たばっかりだよ」
「そっかそっか。うわ~、なんかちょっと見ないうちにまた大きくなった?」
「わかる? いつも一緒にいるとあまり気付かないんだけどね。会う人会う人に同じ事言われるの」
「うんうん、大きくなったぁ~! 子どもの成長にはほんとびっくりさせられるねぇ」
子連れ歓迎のカフェで落ち合ったのは妹の莉緒だ。隣に置かれたベビーカーには生後半年の赤ちゃんがぷくぷくとしたほっぺを揺らしながら寝そべっている。
最後に会ってからまだ2ヶ月足らずだというのに、その時の姿が思い出せないほどに全体的に大きくなっていた。
「かわいいなぁ~…」
覗き込みながらしみじみと出たのは心からの言葉。
少しとは言え同じ血が流れているのだと思うと、その愛らしさは倍増だ。
「旦那さんは元気?」
「元気だよー。相変わらず忙しいからなかなかゆっくりこの子と過ごす時間がないんだけどね」
「そうなんだ。でも幸せそうだね」
「ふふっ、うん。すっごく幸せ」
「あーらら、ご馳走様でした」
えへへと花のような笑顔を見せた莉緒はこれまでで一番輝いて見える。
母となったことで溢れ出る母性がより一層美しく見せているのだろうか。
少し年の離れた妹の莉緒は高校卒業後に小さな会社の事務員として働いていたのだが、そこに出入りしていたエリート営業マンである今の旦那さんに一目惚れされた。まだまだ学生同然の彼女は当然戸惑いつつも、彼の熱烈な猛アタックの末に昨年の春ゴールインした。
まだ二十歳になりたてではあったものの、本人も社会人として自立していたし、何よりもお相手がとても好青年だったということもあり、特に周囲から反対されることもなくとんとん拍子で事が進んでいった。
可愛い子宝にも恵まれ、誰の目にもその幸せオーラは眩しいに違いない。
悲しいかな、対極にいるといっていい私には殊更目に染みる。