秘書と野獣
「…まぁお前が戸惑うのも無理はないよな。でも俺の言葉に嘘はねぇ。本気だから」
「……」
「ま、いきなり押しつける気もねぇよ。今日のところは引き下がるけど、今度は来いよ? お前の好きそうな食いもん準備してっから」
「わ、私を食い意地が張った人みたいに言わないでください!」
「違うのか?」
「うっ…ち、違わ、ないですけど…」
「ははっ! そこは認めんのかよ。相変わらずお前は可愛い奴だな」
「ちょっ…髪の毛グチャグチャになっちゃいますから! もうっ、やーめーてー!!」
少しずつ、着実に。
そう決意した俺を待ち構えていたのは想像以上に高い壁だった。
日を追う事に露骨なアピールをしていく俺を尻目に、ウサギは相変わらず全くそれを本気に受け取ろうとはしない。客観的に見れば俺があいつを本気で好きだというのは明白で、おそらくそれに気付いていないのはウサギ本人だけ。
それどころか、あいつへの気持ちを自覚してからというもの、誰一人として女を寄せ付けたこともないというのに、何故かあいつは俺に女がいると思い込んでいる。何度否定しようともはいはいと流して終わり。
自業自得な部分もあるのかもしれないが、いくらなでもそりゃねーんじゃねぇのかと嘆きたくなる。そのくせ女のことを話す度、あいつは今にも泣きそうな顔で笑うのだ。俺のことが好きで好きで苦しいと言わんばかりに。