秘書と野獣
好きだという言葉を伝えたこともあるが、それすらも一種のじゃれ合い程度にしか受け取りはしなかった。言わば愛玩動物を愛でるのと同列で、決して女として言われているだなんて信じようともしない。
気が付けば俺は38になり、あいつも今年で30代に突入する。
決して焦るつもりはないが、いい加減このままではどうにも埒があかない。
あいつが自覚するまで待っていたら本気でじじぃばばぁになっちまう。それどころか死ぬまで平行線のままの可能性だってある。
それほどにあいつの壁の厚さは想像以上だった。
それなら俺に残された道は一つしかない。
______プロポーズしよう。
本気だと信じてもらえないのならば、嫌でも信じざるをえない状況にすればいい。いくら鈍感なあいつでも、婚約指輪を前に結婚を申し込まれれば、それを冗談だと笑って流すことなどできるはずがない。
これまではいきなりプロポーズはあいつには重すぎるかと慎重になっていたが、むしろそうしなければ永遠に前に進めないことにようやく気が付いた。
どのみちあいつを手放す気などサラサラないのだ。
迷いなど一切なかった。