秘書と野獣
7
「あとは仕上がりを待つだけ…か」
世界的に有名な宝飾店を後にすると、左手につけた腕時計に目をやった。時刻はもうすぐで19時になろうとしている。このまま家に帰ってもいいが、昂揚した気分がそうしたくないと訴えていた。
「あいつに会いに行ってみるか…」
プロポーズをすると決めてからの行動は早かった。
指のサイズをそれとなく探り出し、すぐさま指輪探しに奔走した。
正直俺には専門的なことはさっぱりだったが、あいつにぴったり合うものが存在するはずだという根拠のない確信の下、数々の宝飾店を巡ってはその一点を探し求めた。そうしてもう何軒目になるのかもわからなくなってきた頃、ようやくこれだ!と思えるものに出逢えた。
リングにぐるりと埋め込まれたメレダイヤの中央に輝く光。その中央のダイヤモンドに華を添えるように脇を固める控えめな輝きのピンクダイヤモンド。主役を輝かせるために存在しているかのようなその姿は、まるであいつのようだと思った。
本当ならばそれだけで主役になれるだけの輝きと価値をもっているのに、決して主張することなく控えめに、だが確実な光を放っている。ダイヤモンドがこれでもかと埋め込まれ、一見派手そうなのに決してそうは見えない。それどころかまだまだ大人しくすら感じる。
似たようなデザインはいくつも見てきたはずなのに、どうしてだか一目見た瞬間からその指輪に目を奪われ、もう他のものなど一切視界に入ってこなくなった。