秘書と野獣
「あいつ、あんな格好で一体どこに行くつもりだ…?」
尚も激しい混乱の中にありながらも、このままあいつを逃がしてはならないと本能が警鐘を鳴らす。脳に指令を出すまでもなく、デパートへ向かっていたはずの足は迷うことなくウサギの足跡を辿っていた。
見る限り、あいつもどこか目的の場所があって移動しているようには見えない。
じゃあ一体何をしてる?
初めて見るあいつの「女」を剥き出しにした姿に、自分でも経験したことがないほど動揺していた。あいつの多くを知った気になっていたが、もしかして自分が気付いていないだけで普段からああいう一面を持っていたのだろうか。
自分の幸せに消極的なあいつには男などいないと決めつけ、自分以外の誰かに心を奪われることなどありえないと高を括っていた。
だがそれが全て思い上がりだったとしたら?
そうやって現状に胡座を掻いている間に、とっくにあいつは女になっていたのだとしたら。俺にとっては信じられないことでも、あいつにとっては「ただの日常」に過ぎないのだとしたら____?
ドクンドクンと激しい動悸と共に嫌な汗が滲み出す。