秘書と野獣
「おねえちゃんは? そろそろ結婚とかしないの?」
「はっ? そんなのするわけないでしょー」
「するわけないって…そろそろ真面目に考える時期じゃないの?」
「そんなこと言っても…ほんとに何にもないんだもん。考えたこともないし、そんな縁もないしね」
「……進藤さんは?」
「____は?」
何の脈絡もなく突然出てきたその名前に、思わず赤ん坊の頬をつついていた手が止まった。振り返れば莉緒は真剣な顔でこちらを見ている。
「進藤さんとはどうなってるの?」
「どうなってるって…何が? 普通に社長と秘書やってるけど…」
「そうじゃなくて! だって、おねえちゃんは進藤さんのことが好きなんでしょ?」
「なっ、何言って…!」
「誤魔化さないでよ。そんなのとっくの昔から気付いてたんだから」
「なっ…?!」
思いも寄らぬ妹からの追及に、らしくもなく動揺しまくっているのを自覚する。
社長の下でいかなるときも冷静さを失うなと鍛えられ続けたというのに、あっけなくその壁が崩れ落ちてしまった。しかも鏡を見なくとも今自分が真っ赤な顔をしているのがわかってしまって、尚更心のやり場がない。
そんな私を見ながら何を今更と言わんばかりに莉緒が溜め息をついた。