秘書と野獣
「結婚しようと思ってる」
突然そう宣言した俺に、ウサギは一瞬頭を真っ白にさせて固まった。
だがこれまで散々俺に鍛えられてきた平常心をすぐに取り戻すと、
「…おめでとうございます。ようやくですか。いやぁ、長かったですね!」
などと、心にもないくせにけろりとした表情で祝福の言葉を口にした。
その目はちっとも笑ってなどいないくせに。
それどころか涙を堪えるのですらやっとのくせに。
それでもお前は全てを呑み込もうとするんだな。
…決して自分の気持ちに向き合おうとせずに。
これ以上いてはあいつが涙を堪えるのも限界だろうと、俺はそれだけ伝えるとさっさとその場から離れて行った。きっと誰もいなくなった部屋で一人涙するのだろうと思いながら。