秘書と野獣
だがそれでいい。今はそれで。
とことんどん底まで落ちてしまえばいい。
どうやっても自らの意志で前に進む気のないあいつは、沈むだけ沈んで、その後に吹っ切ったつもりでとんでもない行動に出るに違いないのだ。
____間違いなく俺の前から逃げようとするだろう。
これからのあいつの行動が手に取るようにわかる。
恋人を作る俺には耐えられても、結婚をして誰か一人のものになってしまう俺には耐えられない。だからあいつはその現実から逃れるために俺の前から姿を消す決断をするに違いない。
だがそこでもクソ真面目なあいつのことだ。すぐに逃げるようなことはせず、極力周囲への迷惑を最小限に留めようと、万事整えた上でいなくなるはずだ。
俺には何も言わずに。
ここまで詳細に先が読めてしまう自分がおかしくてたまらない。
いかに自分の中に宇佐美華という人間が侵食していたのかを思い知らされて。
…そう。俺こそが今さらあいつを失うことはできないのだ。