秘書と野獣

あいつが俺から逃げた先で本当に幸せになれるのならばまだいい。
だが、ぼろぼろに傷ついた心は二度と誰かを愛することはないだろうし、俺との思い出に涙しながら一生一人で生きていくのだろう。

「そんなことさせてたまるかよ」

逃げるくらいなら飛び込んで来い。
お前ができないなら俺がそうさせるまでだ。

蜘蛛の巣のようにあいつの行く先を取り囲み、どうやっても俺のところに戻って来るしかないように仕向ける。そうして俺の手の中に閉じ込めて全てを吐き出させてやる。

そうすればお前は世界で一番幸せな女になれるんだ。
俺がしてみせる。


「…さて、決着まではせいぜい一ヶ月ってところかな…」


ついに俺たちの運命を大きく変えるタイマーが動き出した。
どう転ぼうとも、必ずその先で決着をつけてみせる。

固く決意しながら、今日手にしたばかりのリングケースを握りしめた。

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